2013年5月20日月曜日

CD『かんぺきな未完成品』(Scoobie Do)を聴きました。

 Scoobie Doの新譜『かんぺきな未完成品』を聴きました。
 けっこう、私情が入ったレビューになります。

【感想】

 Scoobie Doは私が人生で最初にファンになったアーティストで、自分にとって音楽的ルーツにあるバンドです。彼らを知ってからもうおよそ十年が経ちました。が、実のところCHAMP RECORDS……『トラウマティックガール』でインディーズに戻ってから現在に至るまでの路線があまり好きではなく、特に前アルバム『MIRACLES』が個人的に完全なハズレ盤で、Scoobie Doは変わってしまったんだ、と思わずにはいられませんでした。
 今作、『かんぺきな未完成品』という盤名が発表されたとき、あまりに「らしくない」雰囲気がして、惹かれるものがありました。ちょうど4月に発売されたamazarashiの新譜『ねえママ あなたの言うとおり』が「不完全」をテーマにしたアルバムだったことも多少の影響があったと思っています。
 で、通販で注文したCDがなかなか受け取れなかったため、youtubeにアップロードされたMVを先に再生したのですが。



「なんじゃこりゃ! 真っ黒だ!」
 表題曲「かんぺきな未完成品」のイントロが耳に入ってきたとき、真っ先に頭に浮かんだ感想がこれです。いきなりギターがガツガツ来る感じ、あっ、これ間違いなくライブで一曲目に来てスイッチが入っちゃう系の曲だ、と。真っ黒、というのは、『PLUS ONE MORE』『Funk-a-lismo!』『SCOOBIE DO』の三部作のジャケットが黒かったから、この辺りの曲調を想起させるサウンドを聴くと「黒」という色が連想されてしまうので、そう評しました。
 [1.  想定外のハプニング]から[4. 愛と呼べたら]までの流れは、かなり久々にScoobie Doらしい切り口でやってきたな、という印象。長らく新規にお目にかかっていないサウンドな気がしました。ライブツアーではA Chant For Buから[2. かんぺきな未完成品]につないで一気に沸騰する様がありありと見えます。
 [5. ひとつと半分]は、聴いた瞬間、これゆらゆら帝国じゃねーか!と思いました。私はゆら帝好きですし、それが悪いってわけではありません。個人的にはむしろ嬉しいナンバー。

 と、序盤はよかったんですが、中盤から少し乗れなくなった感じ。そこからはMIRACLESに感じた「必要以上に」聴かせるナンバーが多かった。個人的には、コヤマシュウのボーカルは変にエフェクトをかけたり和音にしたりせず、やってほしいと思うのです。そういう小技を使わない方が、氏のボーカルは強く響く。
 終盤の[10. 穴]や[12. もういちどやってみよう]は好きです。


 今作のリリースにあたってのインタビューがナタリーにありました。その中で、
 だからこのアルバムってバンドの当初の姿に近いっていうか、すっごい「スクービーっぽい」んですよ。どっちかっていうとここ数年の作品のほうがうちらっぽくなかった。 
というのがあって、自分が覚えていた「なんか違う感じ」をリーダーが語ってくれたというのは個人的には嬉しく。そしてそのあとに、
もうイケイケドンドンの曲が12曲だとキツいなっていうのがどこかにあるんでしょうね。だからそういうスローなものとか、ちょっと甘美な感じとかっていうのはどうしても入れたくなっちゃう。
 というのもあって、「なんか違う感じ」にもそういう理由があったのだなあ(予想していたとおりではありましたが)と、少し安心するような気持ちもあり。

 色々な道を模索し、変化していくことは、生きていくなかで当たり前のように起きることで。ここ数年のScoobie Doの路線も、インディーズへの再転向をきっかけに色々やってみよう、という意志はもちろん感じていました。私は、その路線が好きじゃないからと言って彼らを嫌いになったわけでも、彼らを否定するわけでもありませんでした。仲の良かった友人が自分の知らない新しい友人と仲良くしている姿を見て、ちょっととっつきにくくなって、なんとなく疎遠になってしまった。そんな感じだったんだと思います。
 久しぶりに話した友人──Scoobie Do──が、しばらく疎遠になっている間に一回り大きく成長していて、そして友人自身は、別に疎遠になったことなんか少しも気にしていなかった。自分の方が、なんだか嬉しいような、恥ずかしいような、悔しいような気持ちになってしまう。そんな『かんぺきな未完成品』でした。

【満足度】

 ★★★☆☆。この未完成品を完成させるのは、聴き手の仕事でしょう。そのためには、まずLIVE CHAMPたる彼らのライブを観に行かないと──実によくできた仕組みです。かんぺき。


2013年5月12日日曜日

MV集『この日のチャイムを忘れない』(SKE48)を観ました。

 SKE48のDVD『この日のチャイムを忘れない』に収録されている、メンバー63人の単独MV集を観ました。

【感想】

 特に気に入ったMVだけピックアップしました。

・大矢真那『チョコの行方』
 まさながチョコに加工されるMV。チョコをテーマにした曲の世界観に見合った内容です。
 MV自体は演出等からしてもMTVで流れてそうな普通のMVだなと思うんですが、その“普通”というのがミソでした。というのは、このMVがDVDを再生して一番最初に流れるMVだから。初っ端の作品を手堅い作りにすることで、「63人分あるけど気合入れて作ったからちゃんと全部観ろよな!」って制作側の意図が伝わってきた気がします。まあ実際は、省エネな雰囲気のMVもわりと多いんですが……。
 映像作品の短篇集といえるこのDVDで視聴者の関心を掴むための第一歩として、一期生のまさなに白羽の矢が立ったのは、チーム名簿順とはいえ実に適任だったと思います。

・須田亜香里『Doubt!』
 個人的には、このMV集の中で最も良い作品です。他の作品より頭ひとつ抜けてる。
 独り海に立ってバレエを踊る真っ白いワンピースの少女、そして時折挿入される車椅子に乗って海を見つめる制服姿の少女。なんらかの不幸があってバレエ少女の脚が不自由になり、見つめる海の中でもう踊れなくなった自分がバレエを踊る姿を夢想する、というストーリーが、2分間という短いMVの中で克明に伝わってきます。
 そして、これを演じているのがあかりんというのが大きい。軟体女王で天真爛漫な彼女が物憂げな表情で車椅子に乗っている絵というのは、もうそれだけで凄まじく悲劇的な雰囲気がある。特徴的な彼女の満面の笑みもMVの中では鳴りを潜め、見せる笑顔はどれも儚さを湛えていて切ない。普段の彼女とのギャップが激しく、間違いなく彼女にしかできない作品でした。

・小木曽汐莉『寡黙な月』
 取り立ててスゴイところはないんですが、曲の雰囲気と映像の雰囲気がマッチしていて、見ていて楽しくなるMVです。万華鏡の演出の仕方は非常に凝っていて、よく考えられてるなあ~。
 個人的に小木曽さんの顔はあまり好きなタイプではなかったんですが、このMVは観てて「あ、いいな」って思いました。まあ、もういないんですけどね……。

・加藤智子『Nice to meet you!』
 モコちゃん+ゴルフという組合せは、なんというか、限りなく100点に近い。何も間違っていない。正しい組合せ。

・古川愛李『バンジー宣言』
 すごいJOY SOUND感。

・向田茉夏『フィンランド・ミラクル』
 戦場のど真ん中でまなつがフィンランド・ミラクルを踊ったらこの世界から争いは消えてなくなるんじゃないだろうか。

・古畑奈和『手をつなぎながら』
 探偵コスの奈和ちゃん見てるだけで楽しいMVなんですが、最後の展開がまさかのホラー。自分と同じ顔をもつ先輩は、彼女に何を伝えたのでしょうか……。
 神社の鳥居をくぐって、慌てて引き返して一礼してから再エントリーするシーンが高ポイント。

・山下ゆかり『パジャマドライブ』
 なんか変だなと違和感を覚え、これ逆再生なのか……?と途中で気づきました。観直すとちょっと不自然なところもあるのですが、初見では気づかないレベル。すごい。

・二村春香『チャイムはLOVE SONG』
 省エネを逆手に取った、印象に残るMVです。いかにも低予算なんだけど、その制作条件でどうやったらはるたむを印象づけられるかという制作側の工夫が感じられます。教育テレビっぽい雰囲気が楽しい作品です。

【満足度】

 ★★★☆☆。63本という作品数が一つにまとまると、良くも悪くも色々なMVが見られるなあ、と。
 悪いといっても嫌いってわけじゃないですが、もうひと味ふた味欲しかったMVは多かったです。特に木崎ゆりあ『狼とプライド』は、ゆりあちゃんという被写体に狼とプライドという楽曲と、いい素材が揃っているのに、大変もったいないなあと感じました。
 とはいえSKE48というアイドルグループの魅力をとてもよく引き出していることは間違いないので、ファンなら観ない理由はありません。

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2013年5月5日日曜日

映画『藁の楯』(監督・三池崇史)を観ました。

 映画『藁の楯』を見ました。

【あらすじ】

 性犯罪者・清丸国秀によって7歳の少女が惨殺され、経済界の重鎮だった遺族によって「清丸を殺害した者に報酬10億円」という懸賞金がかけられ、10億円の報酬を手にするために、清丸を匿っていた人物・看護師・警察内部の人間である機動隊員・ヤクザ・借金苦の会社経営者・過去の清丸事件の被害遺族など、あらゆる立場の人間が清丸の命を狙う。
 警視庁SP・銘苅率いる護送チームは、九州の警察署に出頭した清丸を東京の検察まで無事に移送することができるのか?

【感想】

 藤原竜也の熱演が光る清丸国秀の“人間のクズ”っぷりは一貫していて、中年の刑事に触られて狂ったように抵抗したり、護送チームの女性SP・白岩(シングルマザー)に対しても不穏当な態度を示したり、借金苦の会社経営者が清丸を殺すために人質に取った少女の顔を見て「ブサイク」と評価したり、護送チームが自分に手が出せないことを認識して感情を逆撫でするように煽ったり、護送チームから逃れた隙に民家で昼寝していた幼女を襲おうとしたりと、徹底して同情の余地がないサイコパス・ペドフィリアとして描かれています。
 10億円あれば人一人殺しても服役後の生活には苦労しないし、ましてやターゲットの清丸があまりにも“クズ”で、殺されることさえ社会正義の下に認められてしまいそうな人間です。人を殺すという罪悪の感情がここまで希釈される条件であれば、そりゃあ誰でも彼を殺そうとするでしょう。現実にこういう事案が発生したら、どうなるんでしょうね。例え一見して味方であっても、誰ひとりとして信用できない緊迫感は息が詰まりました。

 以下、終盤のネタバレになります。反転。

 銘苅の妻が銘苅に遺した言葉がありました。妻が死んだ事故の話の折り、即死だったような説明がたしかあったような気がしたので、そんなこと言い残す暇あったのか?と思ったのですが、まさかその違和感が伏線とは! そうきたかァー、と感心しました。物語の中で登場人物の感情が爆発する場面が好きなんですが、これも大沢たかおの迫真の演技が実によく爆発していて震えるシーンでした。
 妻を殺した運転手を許せず、それでも自分の仕事を、自分の“生業”を生きていくためにでっち上げた、偽の言葉。それさえも破壊され、清丸の口に銃を突っ込んで銘苅の咆哮、無音の暗転。場面のテンションこそ真逆なものの、「Gungrave」最終話を彷彿させる演出でした。
 九州から東京まで清丸を引きずり出して、その過程で多くの人々が命を落とし、心身に傷を負って、最後に得たものは、死刑という揺るぎない絶対正義の司法による“清丸の抹殺”。そして当の清丸は「どうせ死ぬなら、もっとやっとけばよかったなって」とサイコパスっぷりをアピール。到達地点が同じなら、もっと早く殺されていれば、多くの血が流れずに済んだのに……と思わずにはいられない。何が正しくて、何が悪いのか、そういうことを問いかける作品でした。

 全体的に気になったところはあっても不満っていうところはないんですが、唯一の不満は主題歌。作品の雰囲気に全く合ってなくて、なんでエンディングで評価を下げるようなことをしちゃうかなあ、と。「愛のむきだし」や「桐島、部活やめるってよ」ぐらい、作品の雰囲気に深く溶け込んだ主題歌にしてほしいと思いました。

【気になった】

・看護師とか、上司とか、些細な人たちが事件に関わるのに妙に言い訳がましい理由をつけちゃった点。ちょっと魔が差したぐらいでもよかったんじゃないかなあ。
・タクシーで検問を簡単に通過したところ。SPの二人も顔割れてるって言ってなかったっけ……?
・キレやすい刑事さんが「肩に弾を受けてしまってな……」で死んだ。いや、まあ、それだけで死ぬかもしれんけど、もう少し頑張れそうな気がする。どうなんだろ。
・白岩、防弾チョッキは……? タクシー運転手に着替える時に脱いだの?
・清丸の母親に対する感情は本物だったのだろうか。同情させて隙を盗むための芝居だったのだろうか。
・最後、なぜ清丸は蜷川を狙って襲いかかったのか? 銘苅を狙うなら、相応の恨み(もともと中年男性へのアレルギーがある上にさんざ殴られた)があるからわかる……と書いてるうちに、そもそも蜷川が10億も賞金を懸けなければこんな目に合うこともなかったんだから、そりゃ蜷川も恨むか。と勝手に解決。

【満足度】

 ★★★★☆。個人的にはかなり好きです。

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